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かた21動物病院

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質問箱

「てんかん」をおこした犬、狂犬病ワクチンは受けられないの? Q30541

片岡先生こんにちは!この前ある本に「1年以内にてんかんをおこした犬には、狂犬病接種をしてはいけない」と書かれていました。本当ですか?? それは全ての犬に関係することなのですか?(体質とか・・・)。ちょっと心配なので教えてください。

鹿児島市 あられ

はい「あられ」さん、こんにちは。あなたはこのような細かい部分まで本をお読みになっている方なので、書く側の人間としてはありがたい人です。

さて「狂犬病」ですが、日本は幸いにも島国で、また皆様方の協力のお陰で今は発生がありません。しかし近隣諸国や世界中では今も発生していて、いつ日本に入ってきても不思議ではない「人畜共通伝染病」です。対応策は「予防」しかなく、「人でも動物でも発症すれば100%死亡する。」という最も恐ろしい病気の一つです。

実はこの「狂犬病」に関して、私には過去の「苦い思い出」があります。若い頃、外国で狂犬病予防特別プロジェクトに獣医師として参加していた時期がありました。その国(狂犬病常在国)の各地をこの予防注射や検査をする為に廻っていく中、「業務中に後方から来たノラ犬に足を咬まれたのです」。もちろんすぐに消毒をしましたが、仕事先なので帰宅(下宿していた)して改めて傷口を消毒していました。
その時下宿先の主人から「この近辺で半年前に狂犬病で死亡した人がいるので、州立病院の人のドクターに相談した方が良い」というアドバイスを受けたのです。
早速そのドクターを訪問し話をしたら、「君は獣医師だから良く知っていると思うが、狂犬病の予防治療対策は緊急ワクチン療法しかない。その療法は咬まれてからの対応スピードが成・否を分ける。またこの療法の副作用として体の麻痺や脳膜炎で時々死亡することがある。副作用が起こる確率は200分の1だ。」
そして最も重要なのは、「その犬が狂犬病であるかどうか?だ。その判断は獣医師である君が判定しなければならない。私は君の指示によりこの危険な療法を君にすることになる。よく考えてから、また速やかに私に指示してくれ。君の命に関わることだ。」と言われました。咬んだ犬が捕まれば狂犬病であるか否かの診断を下すことは可能なのですが、その犬はノラ犬で行方不明です。私は三日三晩、眠れませんでした。遺書も5通書き、その内3通は発信しました。両親と彼女には知らせない方が良いと思って発信しませんでした。

話が横道にそれそうなので元に戻しますが、私はこの「狂犬病」という病気を「人も、動物のものも実際にその恐ろしさを自分で体験してきた数少ない人間です(今の日本では化石的な体験ですが・・・)」。ですから、この病気の予防は「しっかりやってください。多少の問題があっても、私はワクチン接種推進者です。狂犬病により異国の地で死ぬかもしれない恐怖体験をした経験から、私は心からこの地球上からの狂犬病撲滅を願っています。」

さて、本題の「てんかん歴と狂犬病ワクチン接種」の関係に入ります。
狂犬病ワクチンは集合注射であろうと動物病院で受けるのであろうと、基本的に飼い主さんはまず「問診表」といういくつかの質問に必ず答えていただくことになっています。つまり「健康状態が良い」時に接種することになっているのです。そして次の三項目のいずれかに該当するものは、この予防注射をしないこととされております。

  1. 重い病気に現在かかっていることが明らかなもの。
  2. 以前に狂犬病ワクチンを接種して、ショックやアレルギー反応を起こしたことがあるもの。
  3. 重い心不全や腎不全の状態にあるもの。

これらの場合以外は基本的に予防注射をするのですが、それ以外にその時のコンディションを考えて「注射を打つかどうかを獣医師が判断する項目」というものがあります。その中には確かに「1年以内にてんかん様発作を呈したことが明らかなもの。」という項目もあります。その理由は、

  1. 犬において「てんかん」という病状を呈す病気が少なくないこと。
  2. また「てんかん症状を起こしている犬」の類症鑑別(今発生している病気がいくつか同様の症状・病状を起こさせる病気の内のどれか?を判定する作業)の中には「狂犬病」も含まれている。
  3. 人においてワクチン接種後に「てんかん様の痙攣発作」発生の可能性がありうる。
  4. ワクチン製造各社が「PL法」問題以降、動物用ワクチンの添付文書や予防接種の手引書などの作成時に「人体用ワクチンの添付文書」を参考にした。その文章が今も残っていて今日に至っている。

多分あなたが読まれた「本」を書いた人は、そのワクチン使用説明書を「そのまま」参考にしたのだと思います。ですからその本は「狂犬病接種を受けてはいけない。」ではなく、「予防注射を受けるかどうか、判断は慎重に行なう。」と言いたかったのではないでしょうか?
もし「そういう意味」なら、それは「誤っていません。」と表現しておきます。

それでは狂犬病の予防接種を受けて、「てんかん様の発作が起こる確率」はどのくらいあるのか?というと、それは極めて少ない「400万分の2頭」という確率で、「目クソ・鼻クソ」のたぐいです。
またそれら2頭とも、過去に「てんかん」発生歴の有無や治療歴があったのかは不明です。1頭目は「先にアレルギー様の症状があった」と報告されていますが。この「400万分の2」「200万分の1」の確率が示すように、これは極めて少ないことなのです。一般のいろいろな「予防ワクチン等による事故の発生確率は10万分の3」ぐらいですから、この「200万分の1」がいかに少ないかが判ると思います。
初めの方に述べた私の若い頃の実体験、「人の狂犬病に対する緊急ワクチン療法の、副作用が起こるキケン確率は200分の1」とは比較にならない「雲泥の差」です。

ですからかた先生からの回答として、ご質問については「御心配なく受けたらどうですか?」と表現しておきます。私の病院にも「てんかん発作の治療コントロール」を受けている方がいらっしゃいます。そして、その方々も「狂犬病の予防ワクチンを毎年受けられています」。特に問題があったこともありません。