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かた21動物病院

人とペットの良好な関係を願う

質問箱

「尿失禁」なかなか止まらないのです。~これがメス犬・避妊手術の欠点です~ Q30101

メス(避妊手術済)8歳の中型犬、雑種です。
まだボケが始まったとは思っていないんのですが、もう一年半ぐらい前から家で寝そべっている時や睡眠中などにおもらしをするのです。散歩しているときには普通にオシッコをします。立って歩いている時なども普通でオシッコが陰部から垂れている様子はありません。
動物病院も半年位ずつ回って今の所で三軒目です。原因もハッキリしませずオシッコもらしも止まりません。もう治ることをあきらめた方が良いのでしょうか?

北九州市 悩めるMKさん

とうとう来ましたね、この質問。いずれは来るだろうと思っている質問の中の代表作です。
私ども開業している獣医師にとってこういった問題にはできるだけ触れたくない、また公表したくない問題です。しかしMKさん貴方は本当にお悩みのこととお察し致します。
少々心当たりがあります。請け負うわけではありませんがコントロールできる可能性はあると思いますので諦めるのはまだ早いと思います。さあその解説に入りましょう。

このお答えは次の様な順に説明展開しております。

  1. 語句の説明「尿失禁」とは?
  2. コントロールできる確率は75%ある?
  3. 尿失禁は避妊手術との関係がある?
  4. 尿失禁の発生率は?
  5. 手術方法でも尿失禁発生率に差がある
  6. 手術方法を選択するのは貴方です
  7. 再度申し上げます
  8. 最後に誤解の無いように

語句の説明「尿失禁」とは?

さて動物が目を覚まし活動を開始し歩行中のような状態のときには排尿自制が保たれていて、休憩中あるいは眠っている間に尿がチョロチョロ漏れて出てくるような現象を、尿失禁(にょうしっきん・・・・・排尿が意識とは関係なく起こること)と言います。
この尿失禁は神経系統(交感神経・副交感神経)支配やホルモン支配を含め複雑怪奇な現象でコントロールされていますので治療にはなかなか困難を要します。

コントロールできる確率は75%ある?

しかしある程度年齢の進んだ犬で過去に避妊手術(特に卵巣と子宮を同時に摘出する手術)を受けたことがあって、貴方のワンちゃんのように休憩中または睡眠中に尿失禁を起こすケースでは、75%ぐらいの確率でその睡眠中を含む安静時尿失禁をコントロールすることが可能です。ですから、貴方のワンちゃんがその療法を受けられたのかどうかは、この文面からは判断できませんが、まだまだコントロールできないと諦めるのは早いと思います。四軒目の先生でうまくいく可能性はあります。

尿失禁は避妊手術との関係がある?

さて貴方のワンちゃんのように避妊手術を受けた後にこの種の尿失禁が発生する確率ですが、小型犬よりも中~大型犬により多くの発生を見ています。ちなみにこの尿失禁現象の発生について避妊手術との関係の疑いがあると1991年に発表され、その5年後の1996年の国際獣医学会でも重要な話題として、世界中の獣医師にメス犬の避妊手術の副作用として問題提起されたんです。それでかた先生ごときでもこの問題を知っているのです。

尿失禁の発生率は?

特殊な方法を省いて一般的に行われている避妊手術の方法としての術式(手術の方法)には二種類あります。しかしその術式の違いによってはその後の壮齢、老齢に達したときの尿失禁の発生率に開きがあると報告されているのです。その発生率の開きは8~20%(平均15%)と言われています。またボクサー、ドーベルマンのような体重20Kg以上の大型犬の方に多い傾向もあります。

手術方法でも尿失禁発生率に差がある

その二種類の避妊手術の術式とは卵巣摘出術(卵巣を取り出す方法)と卵巣子宮摘出術(卵巣と子宮の両方を取り出す方法)のことです。どちらの方法でも避妊の目的は達せられます。表面的な違いは切開した傷口の大きさと、手術時間の違いぐらいで双方たいした違いはありません。
しかし卵巣摘出術より後者の卵巣子宮摘出術で避妊手術を受けた犬の方がはるかに多くの尿失禁症が後年に発生しているのですから重大です
ところでもう一つお話しておかなければならないのは、わが国では前者の卵巣摘出術を行う事を好む開業獣医師より、後者の卵巣子宮摘出を行う事を好む開業獣医師の方が多いのです。この点が私が始めに「この件はあまり話したくない」と申し上げた所以であります。

手術の方法を選択するのは貴方です

私は特別な理由が無い限り避妊手術の時には子宮は取るべきでないと思っております。またそのことがこのような後日(老後)の尿失禁を患う犬の発生数の低下ができるはずだと信じています。そのことは数々のデーターからこの件に付いて説明されつつあります。その意味で私は避妊手術の依頼を受けた場合には1996年国際獣医学会の勧告に従い手術の方法三種類と後日の尿失禁の発生を含めたリスクを飼い主さんに説明した上で手術方法を選択していただいております。

再度申し上げます

再度申し上げます。メス犬が避妊手術を受けることで老後に発生する可能性のある病気で予防できる病気としてまず挙がるのが乳腺腫瘍または子宮蓄膿症です。逆にもし貴方のワンちゃんが避妊手術を受けなかったために将来に乳腺腫瘍にかかる確率は0.5%以下(動物病院の診療件数統計の中でも、1.1%)です。たとえそれを子宮蓄膿症にかかる確率に置き換えても、やはり0.5%以下(動物病院の診療件数統計の中でも、1.2%)です。しかし避妊手術を受ければ将来尿失禁を発生させる確率は手術の術式によりますが8~20%(平均15%)なのです。30倍も尿失禁が起こる確率が多いのですよ。
もちろん避妊手術を受けることによるメリットは他にも多々あります。(バックナンバー30801”去勢手術・避妊手術は「絶対」必要か?”を参照ください。)”

最後に誤解の無いように

「避妊手術を受けないほうが良い」と言っているのではありません。私の言おうとしている事は「メス犬が避妊手術を受けるのなら卵巣摘出手術を受けるべきで卵巣子宮摘出手術は避けたほうが良いと言っているのです。
少しでも貴方のワンちゃんの様な後年において尿失禁を患う犬の数を少なくするために申し上げておきます。ちなみに貴方の御質問のケースでは治療コントロールできる可能性が高いので諦めないで下さいね。

かた先生からもがんばれコールを出しておきます。