犬猫の痴ほう、認知症、ボケ、老いの問題(その2)
ラッキー(柴系ミックス雄11歳)は、まだボケていると私は思っていないのですが、今年に入って2度迷子になりました。もちろん私どもの不注意と言うこともありますが、今までに無かったことです。庭から外に出ていっても、夕方のご飯時には必ずまた庭に戻ってきていました。それが今年になって2度も帰ってこないので、こちらから探しにいったのです。
11歳ですから年齢が進んでいるのは間違いありません。しかし白内障ではありません。夜泣きとか徘徊とか以外に、ボケにはどんな変化や症状があるのでしょうか?かた先生教えて
菊池市 ラッキーのパパ
はい、お手紙の内容からしてやはり犬の痴ほう、認知症の内の見当識障害と言う区分に該当するのではないかが疑われます。
誰にもいつかは必ず老いが訪れます。私もあなたもあなたのペットにももちろんですが、犬も猫も全ての地上を徘徊する者に神様が平等に老化を与えてくださいました。昔は「猫は死ぬ姿を飼い主に見せない」と言うふうに言われていました。私が中学2年生の頃、飼い猫(14才)がいなくなって帰ってこなくなった時、「死んだのだろう」と父親からこの言葉と一緒に聞かされました。ず~っと「その言葉」が気がかりで、獣医師になってからも頭の中にありました。しかし、今では「それは間違った考え方。本当は加齢に伴う脳の退行性変化、いわゆるボケです。いつもの様に外に出かけて行って、見当識障害で帰宅する方向が分からなくなり、家に帰れなくなったのだ。」と考えています。今ならもう少し対処の仕方があるのだけれども、あの時代ではしようがなかったとも思っています。
さて、そんなセンチメンタルな事を言ってないで、具体的なボケの徴候についてお話しいたします。
脳の加齢性変化に伴う行動の異常は、気付かぬ内に進行していき、以下のような4項目に区分される行動異常が認められます。
犬の痴ほう・認知症の判定基準と行動パターン
(資料提供:ヒルズ社)見当識障害
- 自分の家の近所で迷う。
散歩に出て、自分で帰る方向がわからない。- よく知っている場所でも迷う。
自分の家、部屋の中でも迷う。狭い所に入ってしまっても、後退して抜け出せない。- いろいろな事に反応しない。
ご飯時刻や食事場所が判らない。- 機敏さや警戒心が低下し無目的な動きをする。
回転するように一方向に歩き続けて、疲れるまで止まらない。後戻りが出来ない。- 壁や宙をじっと見つめていることがある。
ぼんやりしていることが多い相互反応性の変化
- 家族を喜んで迎えなくなる。
家族が外出から帰ってきても迎えない。シッポをあげて振らなくなる。- なでたり抱き上げたりしても、喜ばない。
- 飼い主の関心を引こうとしない。
遊ぼうの動作をしない。- 言葉で合図しても応えない。
呼びかけ、話しかけても反応しない。睡眠あるいは行動の変化
- 日中の睡眠が増加したり、夜間の睡眠が減少したりする。
昼夜が逆転し昼間は寝てばかりいる。- 夜間に家の中を徘徊する。
- 無意味な夜泣きが増える。
夜泣きをする、吠え続ける。家庭でのしつけを忘れる
- 散歩に行くことをせがまなくなる。
- 屋内などのしてはいけない所でオシッコやウンコををする頻度が高くなる。
- 排便・排尿のコントロールが出来なくなる。
それ以外にも、老化、加齢に伴う変化があります。この事については教えて先生質問箱バックナンバー30703”「犬猫が老いるってどんな変化。どうしたら良いの。」犬猫の痴ほう、認知症・ボケ・老いの問題(その3)”でご説明いたします。今回はあくまで痴ほう、認知症、ボケの問題についてです。
上記の変化が8歳以上の老犬年齢やシニア世代で認められたら、それはすでに加齢に伴う行動の異常でボケが開始されたのであって、もしラッキー君に上記項目の一つ以上の徴候が一週間の間に複数回認められたら、すぐにホームドクターを訪問しましょう。
見過ごされがちな通常でも起きそうな一般的問題ですが、初期段階で見つけることが出来れば、これらの望ましくない行動の異常を軽減する処置をとることで、その進行を遅らせることが出来ます。
初めに申し上げた様に犬にだけ痴ほう、認知症、ボケが来るのではなく、猫にも当然認知症が訪れます。しかし猫には当てはまる項目が少ないと感じられるのは、猫はもともと行動パターンとして独自性と独立心が強く、犬のように人の周りにまとわりついたり、命令に従った行動形態をとり難い生活パターンをする動物であるため、上記の痴ほう、認知症の判定基準を行動パターンに当てはめづらく、その変化が人が気付か無いだけなのです。実際は徐々に進行しているのです。
現在ではそのメカニズムもかなり判ってきており、介護や治療方法もあります。また、ペットの栄養研究会社のヒルズ社では認知症予防用のフードb/d(ビーデイ)と言う商品を開発して発売しております。使用を開始してから約一ヶ月ぐらいから改善が認められています。
あなたとあなたのペットが、その最後まで良い関係を保てる様に各動物病院の先生方も、この種の問題に対して勉強をしてきています。ぜひ早い時期に、かかりつけの先生に相談に行ってください。
人とペットとの良好な関係が最終期まで持続できることを、かた先生は願っております。