【「食後の、犬の食器と猫の食器はヌメリ感が違うのはなぜ? (Q&A:30603-01)】 * 「犬の食器のヌメリは、10年間の悩み!」 *【Q:30603-01 「 食後の、犬の食器と猫の食器はヌメリ感が違うのはなぜ? 」】 猫4匹・犬2匹飼っています。 みんなにごはんをあげたあとは、ぬるま湯で食器洗剤を使って食器を洗い、食器乾燥機で乾かしています(ふきんは使っていません)。 食器は「ステンレス製」の物と、「陶器製」の物です。 ここで質問です。 犬の食器はきれいに洗ってもなんとなく「ヌメリ」があるのです。 猫の食器は「ヌメリ」感はありません。 そういえば手や顔をなめられても、猫より犬になめられた時のほうが、ヌメヌメしている気がします。 かかりつけの先生に聞いても「だ液の違い」「食べ物の違い」と言われるだけで、イマイチ分かりません。 10年間この問題をまるで宿題のように悩んできました。 かた先生なら、満足のいく答えを出してくださると思い、「教えて先生質問箱」にお願いすることにしました。 愚問でしょうか? 都城市 レイチェルのママ
【A:30603-01 「 食後の、犬の食器と猫の食器はヌメリ感が違うのはなぜ? 」】 あのね! これは「愚問(ぐもん)」じゃなくて「チョ~長期間 疑問??」ですヨネ!! 10年間の宿題「チョ~長期間 疑問??」。 確かに私にもありました。 私の場合には、「45年間の宿題」でした。 中学校卒業時に、恩師からいただいた「書」の文字が読めない、意味も分からない。 私の事ですから、そのときに必ず「何と読むのか?」聞いたと思います。 しかしすぐ忘れちゃったんです。 それが、ふと思い出して、頭のオデコの右端の角に、ず~と張り付いていました。 しかし45年後、その文字を特殊な辞書内で発見して、「感動した」覚えがあります。 あなたの「チョ~長期間 疑問、10年間の悩み」を、ビシッとご期待通りに「かた先生が」、頭の中の曇り空を「本日から、晴天なり」に変えてみせます。 「かた先生に相談して良かった!!」と言わせてみせましよう。 ところで猫4匹犬2匹ですか? それはお忙しい事ですね。 食事はまとめて与えるのですか? 個別にやるのですか? いつもお話ししているように、複数頭の猫がいる場合には、ワクチンを確実に実施してくださいね。 白血病ワクチンも必要ですのでよろしくお願いいたします。 「トイレの問題・のみダニ問題」も含めてよろしく。(教えて先生質問箱、バックナンバー参照) さて、「食事後の、犬と猫の食器のヌメリと、だ液の関係について」ですね。 この問題は「生理学・動物行動学・比較解剖学・工学の、四つの方向から解説し」結論を導きます。 各項目の解説後に、「この項のまとめ」をつけておきます。」 それでは「教えて先生質問箱」始めましょう。 回答の順序・構成を表示いたします。 1、 「だ液」とはどんなもの。 人と犬と猫での、違いはあるの?(生理学的方向) 2、 犬と猫の採食行動の違いは、だ液分泌量の違い。(動物行動学的方向) 3、 犬と猫の舌の構造上の違いは、だ液漏出(ヨダレ)の違い。(比較解剖学的方向) 4、 食器と洗い方。(工学的方向) 5、 かた先生的結論。
1、 「だ液」とはどんなもの? 人と犬と猫での、違いがあるの?(生理学的方向) ①、 まず、この問題の本質「ヌメリの原因は、だ液が関係している」という事は、ご質問の文面から、すでに理解(想像)されているものと思います。 その通りです。 この疑問の解決のための「キーワードは、だ液」です。 ②、 そもそも「だ液と言う物質」は、「体」つまり消化管の入口(口腔:こうくう)で、大量の液体(だ液)として放出されます。 その働きの基本は「食物を希釈」し、「粘液体で包み込み、吞み込みやすく」し、その後に始まる消化活動に向けて「物流をなめらかに、下方に運ばせる物理的作用」にあります。 ③、 だ液に含まれているよく知られている成分には、多少の「消化酵素」と「粘液物質」、そして「免疫および殺菌物質」などがありますが、その成分の99%は水分です。 もちろんその水分は体内部から分泌されてきて、消化管を通過していく途中で再度体内に吸収されていく「循環水」です。 体内成分としての水ですので、その水も「弱アルカリ性を持った水(体液が酸性化しないように緩衝作用=バッファー効果を持った水)」です。 つまり「ちょっとヌメリ感のある重炭酸ナトリウム水(重曹水)です。 だ液は口腔・食道の粘膜を、保護する役割もあります。 ④、 残り1%には、「消化酵素」としてリパーゼ。 だ液アルファーアミラーゼ(人のだ液にはあるが、犬・猫・牛・馬・羊のだ液には含まれていない)、「粘液物質としての糖タンパク(ムチン)」、「免疫および殺菌物質」として「lgA(粘膜表在性免疫物質)・リゾチーム・ラクトフェリン」等があります。 ⑤、 だ液の1日量は、人では約1.5リットル、牛では約170リットルとされていますが、残念ながら犬・猫では測定した記録がありません。 種類によっての、体重(大小)差がありすぎるため(犬;1kg~90kg、猫;1kg~10kg)犬or猫と設定できない。 ⑥、 人と犬・猫のだ液の成分的違いは、「だ液アルファーアミラーゼ(炭水化物=デンプンに対する消化酵素)が、犬・猫のだ液には含まれていない」という違いです。 ⑥、 食べ物によって、だ液の成分が変化することはありません。 ⑦、 【この項のまとめ】 a, 「ヌメリ感」に関係しているのは、重炭酸ナトリウムと糖タンパク(ムチン)です。 人犬猫牛馬羊等の一般哺乳動物でも共通しています。 b, その他の科学的物質の含有量の差ですが、全体的には零点零何%以下の部分での犬と猫の差で、それは差があるというほどの違いではありません。 c, 食べ物によって、だ液成分が変化することはありません。 2、 犬と猫の採食行動の違いは、だ液分泌量の違い。(動物行動学的方向) ①、 採食行動、つまり「食べ物を採る時には、必ずだ液が分泌」されます。 ですから採食パターンが違えば、それに伴うだ液の分泌パターンと量も違ってきます。 ②、 犬・猫の不断給餌法(1日中に1回だけ十分な量の餌を置いておく方法)での24時間の採食パターンを調べると、もちろん個別の犬・猫によっても違いましょうが、本来的には「犬では日中の10時~13時と、16時~18時の間に2回しっかりと食事」をしていて、夜間には食事をしていないことが判ります。 ③、 しかし、猫では自由に食事を取れる状況下では「1日24時間の中で8回から24回、少量ずつ頻回採食行動を行っている」という採食パターンが判明しています。 やっぱり猫は夜間にも行動をとることが、この採食パターン行動調査からも判るのです。 ③、 【この項のまとめ】 a, 猫は、犬とは違い「昼も夜も少量ずつ頻繁に」採食行動を取る。 それに伴い、「だ液も少量ずつ頻回(1日量の8分の1~24分の1が、1回分)放出」される。 b, 犬では、逆に1回の食事量が猫に比べて多いため、「だ液の放出量(1日量の2分の1が、1回分)も、比較的多く出されている」ということが言えます。 c, だから、パブロフ博士は犬を条件反射実験(犬にベル音を聞かせて餌をやっていると、そのうちにベルの音を聞かせるだけで、犬はヨダレ(だ液)を放出するようになる。)に使用したのです。
3、 犬と猫の舌の構造上の違いは、だ液漏出(ヨダレ)の違い。(比較解剖学的方向) ①、 猫の舌の構造的な特徴は、「舌の表面にあるあのザラザラ感」で、野生にいた頃の食物の肉を骨から外す時に重要な働きをする、突起状の「糸状乳頭(いとじょうにゅうとう)」が発達していて、「機械的に口腔内にあるものを、内方(後方)に飲み込んでしまう」のに都合が良いものです。 ②、 犬の糸状乳頭は、「舌の奥の方」に発達してあります。 ③、 もともと、猫の発祥地は乾燥(砂漠的)地帯で、「体の水分を体外に出す」と言うような行為は、たとえそれが「ヨダレやおしっこ」であっても、極力抑えられています。 それで、猫のおしっこは濃厚でニオイが強いのです。 ④、 だから、犬のように通常の状態で、ヨダレを垂らすということは、猫にはないのです。 (注意: もし猫がよだれを垂らしていたら、それは病気です。) ⑤、 その点、犬は採食行動だけではなく、ボディランゲージ(カーミングシグナル)としての「大好き」と言う表現でも、「舌をペロペロ出したり」「ヨダレを垂らしたり」「口をパクパクしたり」と、表現豊かにヨダレを垂らすものです。 ⑥、 【この項のまとめ】 a, 猫の舌の表面には、ザラザラした「糸状乳頭と言う突起物」が発達していて、口に入れた物を喉の奥に送る装置があるため、ヨダレは外に出にくい仕組みがある。 b, 猫は、乾燥地帯に生息していた生き物で、体内の水分を体外に極力出さない性質を持っていて、通常「ヨダレ(だ液)」を口腔外(体外)に出すことはない。 c, 逆に犬は、採食行動以外の時にもいろいろなケースで、ヨダレ(だ液)を口腔外に出す。 そしてそのことを、あまり自身では気にせずに普通の行為としている。
4、 食器と洗い方。(工学的方向) ①、 食器は「ステンレス製」と「陶器製」をお使いのようですが、ステンレスも使い込んでくる間に表面に細かいキズが付いてきます。 陶器製品は表面が熱によってガラス状になっているため、金属のそれよりも小さなキズに対する耐久力はあります。 しかし新しいそれらの容器(ステンレス・陶器共)を、顕微鏡サイズで確認してみると、けっこうキズや凸凹があるようです。 また陶器製品のガラス体の表面にも、気泡の跡やヒビ割れがあって、細かいキズが付いている事も多いです。 ②、 その小さなキズや凸凹部分に、だ液の成分である「ヌメリの素」糖タンパクのムチン(粘性物質)などが入り込むと、ヌルヌルとした感じが続きます。 ③、 もちろんあなたは「ぬるま湯で、洗剤をつけて洗っておられる」ようですが、粘液物質ムチンはタンパク質で、熱が加わるとより強く表面にくっつく性質を持っており、洗剤で洗っても取りにくいものなのです。 ④、 これは納豆のヌメリと同じような性質です。ぬるま湯+洗剤では油分の「ヌメリ」は落ちやすいのですが、タンパク質系の「ヌメリ」は落ちにくいのです。 ⑤、 【この項のまとめ】 a, 食器には、もともと凸凹がある。 使い込んでいると、見えない傷もつく。 b, 食器に付いた「だ液のヌメリ」はタンパク質系の「ヌメリ」です。 c, 水につけ→洗剤→タワシのコスリ洗いが、「ヌメリ落し」には良いようです。 d, ヌメリの主原因「粘液物質ムチンはタンパク質」で、熱が加わるとより強く表面にくっつく性質を持っています。 5、 かた先生的結論。 【結論です】 1、 犬の食器に付くヌメリは、「だ液」が原因です。 2、 犬・猫の「だ液成分」そのものには、それほど違いはありません。 3、 食べ物の違いによって、「だ液成分」に違いは起こりません。 4、 だ液の「ヌメリ」は、重炭酸ナトリウムと粘液物質、糖タンパク質ムチンです。 5、 犬は食事を取る時、猫よりもはるかに多い量のだ液を一度に放出します。 猫は比較的少量しか、一度に放出しません。 それは採食パターンの違いです。 6、 犬は猫よりも、「だ液を外にヨダレとして漏らす」ことが多い動物です。 猫は正常な行動では、ヨダレを外に漏らさない性質があります。 7、 犬の食器のほうが「ヌメリ感が強い」のは、「だ液の付着量が猫より多い」から。 8、 食器に付着した「粘液(ヌメリ)物質」は、食器の細かいキズや凸凹に入り込み、ナット―のヌメリの様に「洗い落としにくい物質」で、長くこびりついている性質があります。 9、 タンパク質系の粘液物質ムチンは、湯より水のほうが洗い落としやすく、コスリ取るほうが良い。 熱が加わると、より強く表面にくっ付く性質があります。 きれいに洗ったつもりでも、少量のヌメリは残っているようです。 【あとがき】 これにて10年間の悩み「食後の、犬の食器のヌメリ問題は、解決された」と信じます。 ゆっくりお休みください。 けっして「地下鉄のあの列車は、どこから入れたのだろう?」なんて、次の悩みを考えないでください。 また眠れなくなりますよ。 それよりも「レイチェル」さんですか? この名前には、私は「深い思い出」があります。 若かりし頃のイギリスでの、ガールフレンドの名が「レイチェル」さんでした。 若い頃の素敵な思い出(言えね~、言えね~、もうこれ以上は言えね~!!)を、思い出させていただきありがとう。 「おわり」です。